日向月光館

日々徒然。恵陽の日常と本館零れネタ。
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小話

ツイッターで盛り上がってしまったネタ話の小ネタ。
ヘタレ陰陽師と怪力式神少女のお話。
変なテンションで書きあがりました。



「ふんぬおおぉ……!」
 哀しいかなあたしは今何故か、鬼も怯える形相をしているらしい。何故そう言えるかって? だって目の前にいるもの。本物の鬼が。
 ぐおおと腹の底から響くような雄たけびをあげて、鬼はあたしの腕を倒そうとする。だけどあたしの右腕はそんな簡単には傾かない。寧ろ鬼の腕の方が傾いている。腕相撲は得意だ。というか普通の相撲だって綱引きだって滅多に負けない。
「もう少しですよ、がんばって」
 背後から雅な声で応援してくれるのは陰陽師の君だ。応援してくれるのはうれしいけれど、気が抜ける。そして相変わらず腹が立つ。
「うるっさい! 気が抜けるから声かけないで!」
 負けたらあたしは死んじゃうっていうのになんとのんきな。それよりなにより男の癖に、あたしより年上の癖に、なんだあの白い肌。なまっちろい! なんだあの流れる黒髪。うらやましい! なんだあの細い腰つき。もっと太れ!
 女子と見まごう顔立ちに嫉妬を隠せない。そして見た目通りに軟弱なんだ。性別間違えたんじゃないかと本気で思う。





「おっと」
 と、転げそうになる陰陽師の君に咄嗟に手を出したあたし。けど、あれ? なんでこんな格好になっているんだろう。あたしが君を両手で抱えている。すごく軽い。ちゃんと食べているのか心配になる。
「……ていうかあたしが姫抱っこしてどうすんのよ」
 普通は男が女を抱えるものでしょうよ。溜息を吐いて君を地面に下ろすと、君はきょとんとした顔でそういうものなのかと問うてくる。あたしはここぞとばかりに姫抱っこは女の夢だと告げた。
「そうか、ならば私が……」
「え?」
 驚きと喜びが一瞬訪れた。でも一瞬!
「くっ……むう……ふぬう……ううぅ」
 陰陽師の君よ、どれだけ非力なんだ。どれだけヘタレなんだ。がっくり項垂れるあたし。地面から足が一ミリたりとも浮かないよ。
「も、もういいよ」
 何だか哀れに思えてきて、そう申し出る。だけど何故か君は顔を真っ赤にして首をふるふると振る。
「姫抱っこはおぬしの夢なのだろう。私が叶えてやるのだ」
 ふんとか、ふぬぅとか、顔を真っ赤にしている君はどうしてもやっぱりあたしを持ち上げられなかった。だけどなんていうかね、あたしもその時一緒になって赤くなっていたことを悟られなくてよかった。
 やっぱり姫抱っこは女の子の夢だったよ。





 なんでか式神として召喚されてからあたしだけはずっと外に出たままだ。そもそも式神じゃないし、式神って何ってところから始まったんだけどね。
 陰陽師の君があたしを召喚して、あたしに鬼退治をしてほしいなんて頼んだ時は何かと思ったけど、やってみたら意外となんとかなるもんだね。でも負けたら死ぬっていうから命がけ。君は色々と術を施してあたしをサポートしてくれるけど実際はあたしの力にかかっているみたい。
 まあ、毎日ちゃんと食べて運動して、よく寝てって規則正しい生活してれば体なんて不調になることもない。それに屋敷の人たちと親しくなってきたのもいいことだ。病は気からっていうからね。
「式神殿、どうされました」
 最近よく話しかけてくれるのはこの人だ。屋敷の警備を担っているらしい若い人。最初は警戒されたけど害がないってわかって、態度が軟化した。笑うと目尻に皺が寄る。固い印象なんだけど、そこが何だか親しみやすいなあって思うんだ。
「今ね、おはぎ作ってたんだよ。食べる?」
「よろしいのですか?」
「もちろん。食べて食べてー」
「しかし、主には?」
「ああ、君はねえ探したけどいないんだもん。だからどうぞ。いない人を探し回るより美味しい時に食べてくれる人の方がいいもの」
 少し考えたのち、彼はおはぎに手を伸ばした。そして口に含んでゆっくり噛みしめる。目尻に皺が寄った。
「美味しいです」
「本当! やったー。ありがと」
 やっぱりこうやって美味しく食べてくれる人の方がいいなあ。君はどこへ行ったのか。ちょっと気にはなったけど、折角作ったのにいないんだから、もう知らない。

「私におはぎは?」
 出かけていた君は部屋に戻るなりおはぎを所望した。あたしは首を振る。
「もうないよ」
「何故! 何故、私の分も残してくれないんですか」
「だっていなかったもん」
「でも、残しててくれてもいいじゃないですか。しかも屋敷の皆は食べたっていうんですよ。ひどいです。あんまりです。あなたのおはぎが食べたかったのに」
 部屋の真ん中で打ちひしがれる君。
「また作ってもらえばいいじゃない。いつでも言えば作ってもらえるし」
「そうじゃありません」
 ぷんと頬を膨らませて、君は顔をそむける。怒っているらしい。
「私はあなたの作ったおはぎが食べたかったんです」
 おや、と思った。
「私がお願いしてもなかなか作ってくれないくせに、どうして他の皆には自分からあげちゃうんですか。今度は私のためだけに作ってください!」
 口許がついつい緩んでしまう。
 どうやら彼の君は他の皆に嫉妬しているらしい。かわいらしい一面もあるものだ。仕方ないなとあたしは君に向かって笑い掛ける。
「じゃあ、今度君のためだけに作ってあげる」
 ぼっと火がついたように燃え上がった、君の顔をあたしは忘れない。


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